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2015.02
04
10:28

「音楽に未来はあるか?」アセンブリーアワー講演会_渋谷慶一郎さん+evalaさん

―― 音楽に未来はあるか?

音楽家の渋谷慶一郎さんとevalaさんの講演に集まったのは、その多くがポピュラーカルチャー学部音楽コースの学生たち。自分たちがいま学んでいる音楽の未来について気にならないはずがありません。講演会の前夜、お二人は京都の老舗クラブメトロでATAK Dance Hallとしてライブを行い、強烈かつ多彩なサウンドでクラブを大いに盛り上げたばかり。その興奮さめやらぬなか、渋谷さんとevalaさんは、プロとしての音楽との向き合い方や多様なサウンド表現の可能性、そして音楽の未来について、自らの経験や考え方を語ってくれました。時には「ここで目をそらすようじゃだめ」などと挑発的に、学生たちと真剣に向き合う90分間でした。

―― プロとして音楽といかに向き合うか。

講演の冒頭、「一方的にプロから話を聞いてもあまり収穫がないと思う」。そういって渋谷さんは直接学生たちに質問を投げかけました。学生たちがどんな音楽に興味を持ち、どんな活動をしているのかを聞き出しながら話は進みます。「高い学費を払って勉強しているのだから、今のうちから自分の将来について戦略を持ったほうがいい」と前置きしつつ、学生が「J-POPが好き」と答えると、「例えばJ-POPというジャンルで活動を目指すにしても、ジャニーズ系かバンド系か、作曲家かそれとも演奏家を目指すのか」と、学生の考えている事に迫っていきます。その上で、実際にジャニーズ歌手の音楽も手がけた渋谷さんは制作現場をふまえてアドバイス。「DTMの打ち込みを例に上げても、レベルはとても高い。J-POP系での活動を考えたとき、演奏でも打ち込みでも、そこそこ上手いというレベルでは現場ではどうにもならないんですよ」と、音楽業界で生きていくことの厳しさを突きつけます。じっと話を聞く学生たちの心のうちは分かりませんが、ときに冗談を交えながら、ありのままを伝える渋谷さんのお話はとても貴重なものでした。

―― 多様なサウンド表現の可能性。

渋谷さんとevalaさんはさまざまな形で音楽やサウンドの表現の可能性に挑戦し続けています。講演でもそのいくつかを紹介してくれました。

2006年に山口情報芸術センター(YCAM)において渋谷さんは、複雑系科学の研究者である池上高志さん(東京大学大学院教授)と『filmachine』を制作(evalaさんはプログラミングで参加)。立体音響システムとLED照明を駆使したサウンド・インスタレーションは海外の芸術・先端技術の祭典で受賞するなど高く評価されました。『filemachine』はYCAMでの発表の翌年にベルリンでも展示されましたが、日本国内での展示は2014年の「Media Ambition Tokyo」(東京)まで待たなくてなりませんでした。「山口の展示から東京まで6年もかかるのが今の日本の現状で、僕たちの活動の場が海外に多いのは必然的なことなんですよね。日本で大きな設備をともなうサウンド作品を発表しようとすると、エンターテインメント性が求められるということなんです」と、渋谷さん。

一方、サウンドアートシーンで精力的に活動するevalaさんは、現在ICC(NTTインターコミュニケーション・センター)で展示中のインスタレーション作品『大きな耳をもったキツネ』(evala+鈴木昭男)をはじめ、公共空間や舞台などさまざまなかたちで作品を発表しています。2013年に立体音響を担当した『倖田來未/Dance In The Rain』という作品は、360°体感型のミュージックビデオで、バーチャルリアリティヘッドセット「オキュラスリフト」を装着することで、映画『アバター』のような映像世界を音楽と共に体験することができるとか。渋谷さんは、「映画など公共空間で体験する機会が多い立体音響は、『オキュラスリフト』などの個人で楽しむガジェットが今後出てくることで、音響体験がパーソナルなものになっていくと思うし、今後の音楽表現において可能性を感じますね」と、付け加えます。

最近では、2013年に発表され話題を呼んだ「初音ミク」主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』など、つねに先鋭的な表現に取り組んできたお二人の話を聞いていると、次にどんな作品が生み出されるのか期待せずにはいられません。

―― 音楽の未来について。

evalaさんが最近参加した音楽イベントで印象的な出来事があったといいます。「参加した若いアーティストの演奏や曲のアレンジは本当に上手だったんですけど、それよりも気になったのは、みんなが90年代J-POP風のバンドサウンドを出していたことなんですよね」。精華でもバンドを組んでいる学生は多いと思いますが、そんな学生たちに向けて渋谷さんが質問を投げかけます。「いまの若い人たちが音楽や何かを表現しようとする時、新しいものを作ろうとしているのか、それとも懐かしいものを目指しているのかが気になりますね。今回の講演テーマである『音楽に未来はあるか?』の通奏低音として流れるのは、『新しい音楽はあるか?』ということなんですよ」。

約20年前、MAX/MSP(音楽・マルチメディア向け開発環境ソフト)が登場して、Apple社のパワーブックで音楽が作れるようになった時、「これはピアノやバイオリン以来の発明だ」と感じた渋谷さんは、以来7~8年間はピアノの演奏や楽譜を書くということを一切やめ、コンピュータによる電子音楽の可能性を追求しました。現在は、映画『SPEC』にピアノ楽曲を提供するなど、ピアノも弾く渋谷さんですが、こうした重層的な音楽制作の経験が、現在の創作活動に生かされているといいます。

「自分が若い頃は、新しいものを目指さなければいけない、といった風潮があったけど、今はそうは思わない。古典的なものを一切排除して、新しさだけを求めることがかえって新しいものを生み出すことを邪魔する場合もありますから」と、渋谷さん。さらに、最近の音楽制作ソフトの動向にも触れ、古典的なドレミ音階による制作向けと、音階のない現代的な電子音楽向けの両方の機能を併せ持つ製品が登場してきたことから、「古典」にも「現代」にもとらわれない新しい音楽を生み出す可能性を感じると語ってくれました。

いつも音楽の未来を見据えて、「新しさ」や「懐かしさ」を越えて次なる音楽を追求する渋谷さんとevalaさん。音楽の未来を考えるとき、このお二人が辿ってきた道のりにヒントがあるのではないでしょうか。

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